atop

霊山を望む家

お伺いしたのは冬の寒い日。

少し遅れて車から降りると、懐かしいあの玄関から奥様が出迎えてくれました。 「外は寒いですね」と。 玄関のホールに入って目に飛び込んできたのは和風のタペストリー?いや着物? これが着物の帯だと気づくまでに少し時間がかかりました。 「ネットの中古で安く手に入るんですよ」と奥様。色も柄も着物特有のあの感じ。それが少しも古臭さを感じさせない「粋」な空間になっていました。ホールに着物の帯を配するという大胆な手法。さすが奥様。 思えば家の打合せの時から様々な提案をされてきて、その度にデザインを起こすという作業を繰り返していましたっけ。ここでも中古の帯が新たな命を吹き込まれたように感じました。
  • ・ 着物の帯がタペストリーになっています。

  • ・ 信楽焼きのコレクション。

リビングに入ると目の前は霊山の大パノラマ。

これ以上望めないくらいに風景を取り込んだ開口部が圧巻です。そして、とても暖かい。 「暖かいんですよ、びっくりするくらい」 聞けば、この大開口部からほぼ一日中、日が入ってくるとのこと。冬の寒い日でもほとんど暖房を入れずにすむらしいです。ちなみに一ヶ月の電気代を尋ねたところ、かなり安いというお答えが帰ってきました。 住み始めてから驚いたことに、山の向こうから朝日が綺麗に見えるそうです。今年のお正月は家にいたので、初めてこの家から初日の出を拝んだとか。リビングから初日の出が見えるなんて、なんとも贅沢ですね。 また満月も良く見えて、中秋の名月の時にはご家族でお月見とリビングは大活躍です。 逆に夏はどうしていますか?という質問に、サンシェードを軒先に取り付けていますとのこと。見れば軒先には、取り付け用のフックが着いていました。夏はこのサンシェードの内側に子供用の小さいプールを置いて遊ばせているそうです。 石とヒノキの浴室からも風景が良く見えます。ところが困ったことに外の柵の間隔が思ったより広かったそうです。すると、なんと奥様が自分で木の板を打ち付けて目隠しにしたと話してくださいました。家をちゃんとご自分でメンテナンスしているのですね。
  • ・ 凛とした佇まいの黒い外壁。

・ ここで初日の出やお月見ができます。

インタビューの最中に奥様が家のプラン図や打合せに使用した図面を持ってきてくださいました。

「最初の手描きのプランにびっくりしたんですよ。私たちが考えていた家と全然違っていて、そうかこう来るか、という感じで。それからの打合せが楽しかったですね」 いろんな希望を素人なりに出していって、それがデザインされてカタチになっていく過程が楽しかったと、懐かしそうに話してくださいました。 手描きのスケッチや図面をちゃんとファイルにして持っておられることに、うれしい思いでいっぱいになりました。 「建築家や設計事務所に頼むという選択肢を思い浮かべなかったんです。それが結果、良かったんだと思います」まさに一期一会の出会いですね。 コンクリートのキッチンやスキップフロアという大胆な試みをしたのですが、設計者の意図としてはあまり表に出したくなかった、むしろ質素に仕上げたかったのです。家がキャンバスだとしたら、絵を描くのはオーナー様ですよとお話ししたのですが、見事に奥様は答えてくれました。 先ほどの着物の帯のタペストリー、信楽焼のコレクション、チェアなどのデザイン家具などなど。そしてキッチンの壁一面に飾られたフォトフレームの数々。 かわいいお子様の写真がいっぱい飾られている様は、まるで外国映画のようです。 「暮らす」ということに積極的に楽しんでおられる奥様。まさに大切なのは「家」より「暮らし」です。暮らしを彩りのあるものに変えること、建築はそのお手伝いをするだけなのだなと、改めて感じました。 あいにくご主人はお仕事だったのですが、きっと今日もあの賑やかなお子様たちとご家族で「暮らし」を楽しんでいることと思います。
  • ・ 現代作家の家具が何気なく置かれています。

  • ・ コンクリートのキッチンとフォトフレーム。外国映画のようです。



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